このCD・映画のコーナーでは、ピアノ演奏のCD紹介の他、ピアノ音楽や印象的な音楽が使われている映画の紹介もしています。管理人日記とは別のコラムも掲載しています。
CDは主にクラシックピアノCDに関してのレビューです。お薦めの理由や演奏の特徴のほか、ものによってはあまりおすすめではない理由も書いています。
良い質の音楽を聴くということが、すぐに自分のピアノの上達に直結するわけではありませんが、少しずつエナジーを吸収することが、演奏にあらわれてくると思います。
このたびCDレビューをロマン(当ページ)と古典・近現代・ピアノ協奏曲の4ページに分けて見やすくしました。このページはショパンやリストなどのロマン派時代のピアノ音楽です。
アンスネス 形式感を維持しながらもロマンティックなソナタ
ショパン:ピアノ・ソナタ全集
ノルウェーを代表するピアニストであり世界的に活躍しているレイフ・オヴェ・アンヌネスの若いころのショパンのピアノソナタ全集の録音。
ショパンのピアノソナタは3曲あるがほとんどのピアニストのCDが2番と3番の組み合わせを1枚のCDにしているのに対し、アンヌネスのこの録音では3曲の中ではあまり評価が高くなく演奏機会も少ない1番も収録してあるのが1つ興味深い(他のピアニストでも3曲録音しているが発売は2番と3番の2曲の組み合わせのみといしている場合もあるだろう)。
その1番も第1楽章からとても情熱的な演奏で何度も繰り返されるテーマが心に響くが、注目はやはり2番のソナタ。
2番の第1楽章は昔のピアニストはゆれゆれのテンポで弾いていたり、現代のピアニストは普通すぎで単に強弱はある程度の演奏になってしまっている場合もあるが、アンスネスはテンポの調度良い揺れ加減と適度なタメ具合を上手に使っていて聴手を飽きさせないし、第2楽章のスケルツォもリズム感が良いので、次の葬送行進曲との対比も明確。
そして終楽章の暗いロマンチシズムも繊細な指さばきが見事に表現している。
もっともっと情熱的なショパンのソナタが好みの人にはあと一歩物足りないように思う場合もあるかもしれないが、テクニックのキレなども含めて非常に完成度の高い演奏であり、録音もクリアに響いているのでショパンのソナタの既に数枚持っている方でも興味の惹かれる演奏だろう。
あとはソナタ3番とマズルカ数曲、エチュード数曲も収録されていて、特にエチュードは密度の濃い演奏をしている。(2012-04-02)
カツァリス 独特の声部の使い方と自在性のあるワルツ
ショパン:ワルツ集
シプリアン・カツァリスのショパンのワルツ集です。何とも言ってもカツァリス独特の声部の出し方によって、演奏家やピアノ学習者にとっても定番中の定番とも言えるショパンのワルツがまた違って聴こえてくるのが魅力でしょう。
特に1番や5番、7番、14番などといったワルツがとても素敵に弾かれているので、既にワルツ集の録音を持っている方にもぜひ聴いていただきたい1枚です。
ただし、6番「小犬」や9番「別れのワルツ」といった曲はもう少し動きやノリの良さや流れといったものが感じられる演奏が好きという方もいるかもしれませんが、これも好みが分かれるところでしょう。(2009-12-4)
レオンスカヤ しっとりと、時には情熱的に
ショパン:夜想曲集
旧ソ連出身のピアノスト、エリーザベト・レオンスカヤのショパン「ノクターン選集」です。
有名ピアニストのショパンのノクターン演奏というと、幾分あっさりめにまとめる方も多いのです、このCDのレオンスカヤは全般的によく歌うノクターン演奏になっていますので、演奏の仕方によっては退屈気味になりがちな1番なども惹きこむ演奏になっていると思いますし、有名な2番もたっぷりとした情感が持ち味です。
少し大曲の雰囲気もある13番などは前半はかなりゆっくりと進みながらも、後半からは非常に情熱的な熱演スタイルで弾き通していますので、13番にこうしたスタイルの演奏を求める方には好まれる演奏になっています。ただし、後半の情熱スタイルがやや過剰に感じるという方もいるかもしれません。
このあたりの曲によってかなり表現の仕方に違いを感じるのは、ノクターン集と通しての演奏というよりも個々の曲の性格や持ち味を活かすような演奏になっていると言うとわかりやすいでしょうか。ショパンではよく歌うということは重要な要素の1つですから、ノクターンを弾く方も参考に聴いてみるのも良いと思います。(2008-11-4)
カツァリス 自在なバラードとスケルツォ
ショパン:バラード集&スケルツォ集
ショパンのバラードとスケルツォと言えば、過去の巨匠ピアニストも現在の名ピアニストにも名演奏の録音が数多くありますが、今回はフランス出身のピアニスト、シプリアン・カツァリスのショパンをご紹介します。
バラードは曲の持つ物語性を大事にしながらも、自在なピアニズムです。感傷的になりすぎることもなく、カツァリスならではの完成度の極めて高い技巧で余裕のある表現で、非常に説得力があります。4番などは音の美しさも最大限に引き出した名演奏でしょう。
スケルツォの4曲でも持ち味のキレの良い技巧から生み出される演奏は素晴らしい。有名な2番も音の躍動とペダルが絶妙で素敵ですが、1番のスケルツォのロマン的な音づくりとテクニック的な箇所の対比の繰り返しも魅力的で、惹きこまれる演奏です。
このように、どの曲でも非常に高い次元での演奏だと言ってもいいカツァリスのショパンですが、ショパン演奏には既に固定されたイメージを持っている方も多いと思うので、聴いてみてイメージとかなり異なるという方もいらっしゃるかもしれません。(2008-06-05)
バレンボイム 現代の神童のノクターン
ショパン:夜想曲集
ショパンのノクターン(夜想曲)の録音は多くの一流ピアニストのものが存在するので、聴く方もいろいろと聴き比べできますし好みも様々だと思います。
その中で今回は、幼い頃から神童ピアニストとして有名になり現在はピアニストとしての活動はもちろんのこと、指揮者として華々しい活躍をしているアルゼンチン出身のダニエル・バレンボイムの「ショパンのノクターン集」の演奏を聴いてみます。
テンポはどの曲も全体的に抑え目で品性のあるノクターンというのが第一印象です。最も有名な2番(9-2)でも、大げさな表現になったり激しくテンポが揺れるようなこともなく、盛り上がりの強調を逆に音を抑えめにしているあたりの表現も聴きどころでしょう。どの曲も演奏の質としてはかなり高い水準にあると言って良さそうです。
ただし、こうしたノクターンという性質のみのCDですから、このような演奏スタイルは集中して聴くには、少し物足りなさを感じる方もいるかもしれません。例えば、8番(27-2)や20番(遺作)といった有名曲では、もう少し大胆な表現を好む方もいると思います。
それでも、質の高くて品性のあるバレンボイムのノクターンは、実際に弾いてみようと思う方の参考にもしやすいテンポと表現だと思います。(2008-02-03)
田部京子 注目のシベリウスを
Sibelius: Piano Works
今年2007年が没後50周年ということで注目されているシベリウス。作曲活動上での代表作は交響曲といった印象が強い作曲家ではあるが、ピアノ曲もかなりの作品数。
そのシベリウスのピアノ曲の演奏といえば、古くはグールド、日本では館野泉氏の演奏も有名だが、今回は田部京子の演奏で。
このCDに収録されている曲は、どれも難曲というほどのこともなく、中級者くらいのピアノの腕前の愛好家でも、練習によってはかなりの完成度を持って弾ける曲も多い。だが、曲の持つ内面までも表現するような演奏をするとなると、かなりの熟練度が必要かもしれない。
そういった点については、近年充実した活躍をしている田部京子の演奏は味わい深いものになっていると言える。これらの曲の中では比較的有名な「樅の木」なども、絶妙な語り口で心の内側や遠い過去と未来のような世界観を見事につくっている。
ただし好みの問題もあるので、これらのシベリウスピアノ曲は、もっとサラサラと流れて欲しいと感じる方もいるだろう。また、録音が響くような感じなので、音響の好みも分かれるかもしれない。
アシュケナージ 落ち着いた展覧会
ムソルグスキー:展覧会の絵
ラヴェルのオーケストラ版の編曲も有名な「展覧会の絵」ですが、ピアノが原曲でありピアニストの重要なレパートリーになっています。最近は以前にも増してリサイタルで登場する機会も増えた印象です。
ここで演奏しているのは、現代ロシアのピアノの巨匠的存在になりつつある、ウラディミール アシュケナージ。指揮者での活動の方が最近は多く、日本のNHK交響楽団の音楽監督も2004年から努めています。
この録音は1980年代や70年代のものが中心で、技巧的な完成度はよく、母国ロシアの音楽をしっかりとした構成感を持って弾いています。アシュケナージですから、極端なテンポの揺れや奇抜な演出的な演奏をすることはなく、正統的とも言えるピアニズムですが、平坦になってしまうようなことは決してありません。力強さも適度にあり、聴きやすい演奏だと思います。
しかし、この「展覧会の絵」を、多くのピアニストが得意レパートリーにしていて様々な演奏が聴ける現代では、このアシュケナージの演奏は、少し工夫に欠ける印象です。もっと荒々しいムソルグスキーという演奏や、表情豊かな陰影のピアニズムを好む方には、物足りない感じがする可能性はあるでしょう。
ラローチャ スペイン音楽の女王
入江のざわめき/スペイン・ピアノ名曲集
よくスペインピアノ音楽のスペシャリストとされるアリシア デ ラローチャは、モーツァルトやベートーベンなども得意としている女性ピアニスト。もちろん、出身のスペインものは主要レパートリーで、この録音はアルベニスとグラナドス、ファリャといったスペインの定番ものが入っている。
素晴らしいと思うのはアルベニス。タンゴやパバーナ・カプリーチョ、セビーリャといった、それほど規模の大きくない作品を陰影のある響きでじっくりと聴かせてくれる。
グラナドスはどうだろうか?スペインピアノの女王には申し訳ないが、アンダルーサなどはちょっとあっさりとしすぎているような演奏。リズム感も進んでいくようなスタイルではないので、この曲の即興感が出ていないようにも思える。
だが、他国の人が思うほど、スペイン音楽というのは「情熱で熱狂的」な面ばかりがあるわけでもなく、シーンした空気が漂っていたり、暗く沈むようだったり、淡々としたリズムだったりするもの。聴く側が期待するような派手さのあるスペイン演出をするピアニストもいるけど、これくらいでもいいのかもしれない。
他にファリャのバレエ音楽「恋は魔術師」のピアノ組曲も収録。こちらはこの曲も持つ不思議な様相を、ピアノの響きで見事にあらわしている。
フランソワ 香りあるショパンエチュード
ショパン:27の練習曲
このフランソワの録音を素晴らしいと思う方もいれば、エチュード演奏の水準としては不満を持つ人もいるでしょう。フランソワですから、誰にも真似ができないような絶妙なテンポの揺らし具合や強弱の付け方、歌い方をしていて、熱烈に好きな人がいるのは理解できるところです。
しかし、技術的な水準としてはやはり不満があります。コンサートレベルのピアニストにとってはそれほど難しくもないOp10-12革命でも、中間からだんだん遅くなっていくような演奏。ちょっと滑っているような箇所もあり、「なんだか弾けていない」と感じる人でいてもおかしくはありません。
だけど、これがフランソワなのでしょう。技術的に甘いとか、テンポが一定ではないとか、ミスしている箇所があるということは、十分に承知の上でも、尚素晴らしい演奏でもあるのです。
エチュードを勉強しようとする人の参考にはちょっとなりにくい演奏ではありますが。
ポリーニ ショパンエチュードの最高峰
ショパン:12の練習曲
ショパンのエチュードの名演奏はいろいろとあるので、有名なポリーニのこの録音が素晴らしいと感じるかは、かなり意見の分かれるところでもありそうです。若い時の録音なので、技巧的には完璧に近い水準でどの曲も弾ききっており、ロマンチックな要素たっぷりのショパンとは、かなり異なった様相です。
エチュードとはいえ、ショパンですからただの練習曲ではないので、「ガンガンとしている」とか「もう少し香のあるような演奏の方がいい」とか「表情に乏しい」と思う方もいるでしょう。しかし、ポリーニは無味乾燥に弾いているのではなく、ショパンに音楽を確実にやっているようにも思える演奏です。「木枯らし」がおすすめです。機械的な感じはしないようにも思うのですが、聴く方の好みですね。
どの曲に対しても正統的なアプローチで完成度は高い演奏なので、ショパンエチュードに挑戦しようと思っている方も安心して聴けると思います。ただ、現代ではこれくらいの技術水準のピアニストは、結構いますが。
シフラ リスト弾きの奔放なピアノ
リスト/ハンガリア狂詩曲第1番〜第15番(全15曲)
リスト弾きとして有名なシフラだが、日本ではあまり人気がないようだ。その理由も何となくわかる。こういったシフラのような少々クセのある弾きかたというのは、音楽的な内面性が無いとか、曲芸的にテクニックを見せびらかしたピアノ演奏などと言われる。
でも、そうなのだろうか。本来リストのピアノ曲、特にこの「ハンガリー狂詩曲」などは、リズムに乗って、時には気分で弾いているかのように、そして大胆にピアノを鳴らすものなのかもしれないと、最近思うようになった。
確かに、人気のある狂詩曲2番なども、初めてシフラのピアノを聴いた人は驚くかもしれないが、聴いているうちにこの演奏がたまらなく好きになるものだ。リストのピアノ曲を完璧に弾けるピアニストなんていっぱいいるけれど、すまし顔のようなピアノは物足りなさも感じるくらいだ。
そして、フランツ・リスト本人の演奏も、おそらくこのシフラのような荒々しさも備えているようなものだったのではと思いたくなる。
アラウ じっくりと堪能できるショパン
ショパン:ワルツ全集
先生:「あなたどんなピアニストの演奏を聴いているの?」
わたし:「え?あの〜○○○○などのですけど」
先生:「そんなピアニストだめよ!アラウ聴きなさい!アラウ!」
と、こんな会話が何度かありました。ベートーベンもショパンもリストも、名ピアニストのいろいろな録音があるけれど、アラウを聴かないで何言っているの?という先生だったのです。
そういう感じで言われると、人間は反発したいたくなるものですが、今聴いてもやはりアラウのピアノは一味違います。このショパンのワルツ集でも、テンポは一般的な演奏に比べるとかなり遅めです。この2倍くらいのスピードのワルツも確かにいいのですが、じっくりと聴かせるスタイルで気品と深いリズムのアラウならではの充実したピアノは、他ではなかなか聴けないものでしょう。
また、学習者や趣味のショパン弾きに方にも参考になると思います。目指すピアノ演奏のひとつの方向性ではないでしょうか。
アンドレ・ワッツ 軽やかな快演
リスト:ラ・カンパネラ(ピアノ名曲集)
アンドレ ワッツによるリストの名曲集。近年テレビなどで注目されたラ・カンパネラももちろん入っています。
そのラ・カンパネラの演奏ですが、このワッツの演奏はかなりの高いところに位置づけされるのではないだろうかと思います。
ワッツはリスト弾きですから、当然のように技巧については全く申し分がないというか、余裕を感じるレベルで、リストのピアノ曲の表現というものも、テンポに多少の揺れやうまい間の取り方がありながらも過度にはならず、盛り上げるところでしっかりとピアノを鳴らして、適度な加速感なども入れて聴かせてくれるという、リスト演奏にこのようなイメージを持っている人は、ワッツの演奏はそれに近いかもしれないくらいの快演です。
そして軽快さというのが、ワッツのピアノ演奏と言えるでしょう。決して重くならないので、「エステ荘の噴水」なども、非常にきれいに聴こえるのがうれしい。
ただこれも好みだが、シフラのような自由度が高い演奏が好きな人や、フジ子ヘミングからリストを聴いた人にとっては、もしかしたら多少の違和感があるかもしれません。