ピアノを弾くために必要な様々な要素の中でも、多くの人が最も注目するのが、この「指をいかに鍛えるか」だと思います。
しかしその練習方法を考える前に、自分がピアノを弾いている手と指のフォームを確認しましょう。ピアノの鍵盤上で、指が自在にコントロールできるようになるには、指を鍛えるよう練習をする前に、基本ポジションができていなければ、練習の成果も半減です
基本ポジションを確認しましょう
さあ、指をしっかり鍛えよう!…と、その前に基本ポジションを確認しましょう。
スポーツでは、その競技や種目のために、理想とされるフォームがあります。
例えば、野球ならピッチャーの投球動作のフォームや、打者の打撃のフォーム。サッカーなら走る動作のフォームや、ボールを蹴るフォームです。
選手は個々に違ったフォームをしていますが、一流選手になればなるほど、効率的でムダがなく、美しいフォームをしていると思います。
ピアノを弾くときも同じように考えてみましょう。正しい姿勢で椅子にすわり、手を鍵盤に置きます。肘の高さと手のひらの高さが同じくらいでしょう。
そして、指の形です。鍵盤に触れる指はどのような形をしていると、自分が弾きたい強さで、鍵盤を弾くことができるのでしょうか。
知っている人も多いでしょうが、実は指はそれほど曲げません。少し丸めたかなっと思うくらいで、ピアノは弾きます。(某ピアニストから提供された写真を参照してください)
手と指の形をつくるやり方としては、両手を幽霊が「うらめしや〜」とやるように、肩幅くらい胸の前にダラ〜と下げてください。指に力は入れません。それが出来たら、その手をそのまま手のひらを下にして、鍵盤上に置いてください。
どうでしょうか。写真のような手と指の形になりましたか?(もちろんこれは一例であり、人によって異なります)
昔、玉子をつかむようになどと教えられた人も多いかもしれまんせんが、それを意識しすぎると指の先で鍵盤を弾くことになり、自分が強さを調節しているつもりでも、いつも同じような強さでしか、鍵盤を弾けなくなります。また、指を曲げすぎると関節の無駄な力が入りやすく、指を自在に動かすことが難しくなります。
もうおわかりですね。自分で強さを加減できる指の箇所というのは、決して指の先ではなく、指の腹付近より少し先ということです。腹付近というのは、その人によって最適な箇所が微妙に違うからです。
確かめるには、例えば、自分の指の腹で自分の体の任意の場所(手の甲など)を押してみてください。そうすると、指の腹の中ほどより先に近いあたりで、強くも弱くも一番自分の力加減が伝わりやすいポイントがあると思います。そこがあなたが鍵盤を弾くポイントといえます。(ただし親指は例外です)
鍵盤を弾くポイントを把握できたなら、常にそのポイントでピアノを弾くようにしましょう。爪を立てて弾いてはいけませんよ。指の腹中心すぎても強さが足りません。この基本ポジションを保って(もちろん、指を広げたり、狭い範囲を弾くときなどの例外はあります)指の訓練をしないと、ただ同じような音量でボツボツを弾くようなクセがつきがちです(当然ですが、爪が鍵盤に当たる音がするのは論外です。爪はきちんと切りましょう)。
もう一点大事なことは、指を鍵盤につけた状態でピアノを弾くことです。無駄な動きが少ないですし、隣り合った音をつなぐレガートがつくりやすくなります。(もちろん、ペダルの使用や曲の箇所によっては異なります。常に指が鍵盤につけた状態を保たなければいけないということではありません)
指を高くあげるのは筋力をつけるという効果が期待できますが、やはり余計な力が入り、それが身についてしまいます。これもボツボツと同じ音量で途切れるように弾く原因になります。
- 追記1-鍵盤を弾くポイントやフォームについて
- 上に書いた説明で、だいたいわかっていただけると思うのですが、この鍵盤を弾くポイントと手の形いうのは、ピアノを弾く技術の上ではもっとも重要だと言ってもいいくらいの、大切なことです。
理由もすでに述べたとおり自分が鍵盤を弾く強さの力加減が、最もしやすいところで弾くことができることと、指に余計な力を入れずに動かすことができるからです。要するに、力の加減が一番できて効率的に動くところなら、どこで弾いてもいいのです(指の爪先で弾こうと、手の甲で弾こうと、鼻で弾こうと耳で弾こうと…)が、現実には指の腹付近よりも少し先くらいのどこか、で弾くのがいいポイントで、動きの上でも無理が少ないと思います。ですから、世界の一流ピアニストの演奏を見ると、指が思ったよりも伸びているように弾いている人が多いのですが、それはこういった理由によります。(この理由というのは大切です。「一流ピアニストがそうしているから」ではありません。) - 追記2-鍵盤を弾くポイントやフォームについて
- しかし日本では、意外なほどに鍵盤を指の先で弾いている人が多いのです。爪があたってカチカチを音がしている人もいます。また、ピアノの指導者でも、指を鍵盤に垂直に当てるのがいいと教えている人も、いまだいるようです。
指を鍵盤に垂直にして弾くことの問題点は、鍵盤を常に強く弾いている感覚を得てしまうので、いつも同じような音量で弾いてしまうことや、手の関節・甲や手首、腕などに余計な力が入りやすいので、コントロールがうまくできない・疲労が大きいなど様々です。
これは、戦前からの日本のピアノ教育の名残のようで、ふさわしくないことはすでに多くのピアノ関係者が知っていることですが、初期の段階では強く弾くことが容易なことから、根強く残っているようです。 - 追記3-鍵盤を弾くポイントやフォームについて
- 指を立てるようにして弾くことが、間違っているわけではありません。そのような奏法をしているピアニストもいます。また、子供のうちは指がそれほど強くないので、幾分指を立てぎみに弾いていても、問題ないと思います。
しかし、年齢が上がってきて、指がしっかりとしてきても指を立てたまま弾いていると、ガツガツとして演奏になりやすく、事実、指を立てるように爪先で弾いているピアニストは、音を完全にコントロールはできていない人もいます。また、コントロールできたとしても、練習量がかなり多くなることは予想できます。 - 追記4-指を伸ばして弾くことが目的ではない
- このような基本ポジションに誤解を持ってしまう方もいるかもしれません。これは指を伸ばして弾くことを薦めているわけでななく、ピアノの鍵盤をコントロールできる指のポイントを、自分で見つけてくださいということです。(上の某ピアニスト提供の手の写真は、一例と思ってください)
ですから、指が玉子をつかむような形をしていても、それが自分によって鍵盤コントロールの最適ポジションだと感じるなら、それで良いのです。また、速いパッセージなどの強奏で指を立て気味になることも、弾く人によって程度の差があるので、全く問題ありません。 - 追記5-指が鍵盤に触れる角度は、音色とは関係がない
- 鍵盤を弾く指のポイントは、主に音を自在にコントロールするために重要なことですが、「指を伸ばして弾くと音は柔らかく、曲げて直角に弾くと硬い音になる」と誤解されている人もいるようです。
指が鍵盤に触れる角度は、1音と弾くときにはピアノの音色とは関係はありません。どんな指の角度で弾こうと、指以外の鼻で弾こうと足で弾こうと、打鍵スピードが音の強さを決めるのです(もちろん、角度が違うと打鍵スピードを同じくらいで弾いたとしても、実際の打鍵スピードが変わってくるということはあります)。
ただし、自在な音のコントロールと、2音以上のつながりや和音のバランスを考えると、指のポイントが重要になってくるでしょう。指に必要以上の力が入った曲がった指では、コントロールが難しくなります。
- 追記6-ピアニストの動作には意味があるの?
- ピアニストはいろんな動作でピアノを弾いていますが、それはピアノの音とどんな関係があるのでしょうか。
非常に強いフォルテ2個や3個の和音などで、ピアニストは和音を弾いた瞬間に、手が鍵盤から跳ね返ったようになっていることがよくあります。この動作に意味はあるのでしょうか。
これは一般的に、打鍵スピードがものすごく速いためにおこる動作でしょう。強音の和音を弾く時には、鍵盤の底で手が止まると思っていると打鍵スピードが鈍るので、跳ね返ってしまった方が打鍵スピードをあげることができると思います。
では逆に弱音で、手前に鍵盤を引くような、なでるような動作は意味があるのでしょうか。
これもそのピアニストが弱音をコントロールしやすい動作だと感じていれば、そういった動きになることもあるでしょう。しかし、そのように鍵盤をなでるように弾くことと、普通に弾くことは、全く同じ打鍵スピードならば音は同じです。なでるように弾く動作自体は、ピアノの音色に影響は与えません。
要するにどちらも場合も、ピアノ演奏者本人の打鍵スピードコントロールをしやすい動作かどうかということになると思いますが、ピアノを長年弾いてると、無意識に出てしまうような動作でもあるでしょう。 - 追記7-鍵盤が底にあたる音を無くす?
- 鍵盤を深く弾くと、底に当たる音がします。これはピアノという楽器の構造上当然のことです。
しかし、これを「下部雑音」だと言って、悪い音色の原因だから無いほうが良いとか、無くすように弾くべきだと言っている人もいます。そのため、追記6のように、手前になでるように弾くのが良いと言っている人もいます。
しかし、これは大きな勘違いです。底にあたる音を無くすように弾くと、いつも浅い弾きかたになってしまい、音がしっかり鳴りません。
底に当たる音は、確かに大きめに聴こえるピアノもありますが、通常では問題にならないはずで、聴こえる音に対する影響はほんのわずかであり、また消すようなことはできません。特にホールのようなステージ演奏では、聴衆には聴こえないので意識する必要はないでしょう。鍵盤はしっかり弾いて良いのです(もちろん、浅く弾くことも、場合によってはあります)。 また、あまりに鍵盤の動作音が大きかったり、鍵盤が底に当たる音が大きい場合には、そのピアノの構造上の問題でもありますから、調律師に診てもらうといいでしょう。元々質が良いピアノで尚且つしっかりと調整されていれば、鍵盤の底に当たる音も含めてピアノの音として調整されています。