ピアノを弾くということに関して、本来は技術と音楽的なことは切り離すことはできないものです。
しかし、日本ではちょっとした勘違いのように、「技術が先行している」とか「あの人は技術だけで音楽性に乏しい」といった言われ方をします。
こういったことは、指を純粋に鍛えることが、そのままテクニックにつながるという誤った考えから来ているようです。指を鍛えることが=テクニックではなく、鍛えた指を演奏に生かす能力が、本当のテクニックです。
ここでは主に、メロディーと伴奏やリズム感などに関して説明をしています。
メロディーを歌う
ピアノという楽器は、指を動かすということに目を奪われがちなので、、歌うように音楽的に弾くということが、どうしても二の次になりがちです。一時期よりは減ったものの、ピアノ教室の発表会などで、無味乾燥な演奏をしてしまう人はいます。
悪いのは、生徒さん本人だけではありません。指導者の問題でもあるのです。ただ楽譜を間違わないような演奏では、人間が弾いている意味がなくなってしますます。
「ピアノを弾きたかったら、もっと歌わなくてはならない」とは、わたしの言葉ではなく、ショパンの言葉です。本当にそのとおりだと思います。
一番いいのは、声に出して曲のメロディーを実際に歌ってみることです。
例えば、右の譜例1の、クーラウのソナチネ右手のメロディーを、声に出してみましょう。「ラ〜」でも、「あ〜」でもいいですよ。
ちょっと恥ずかしい感じがする人もいるでしょうが、声質はどうでもいいのです(いい声だと尚いいですが)。そうすることで、メロディーをどのような表現で弾けばいいのか、実感できると思います。
このクーラウのソナチネの冒頭の場合、3小節目の「ミ」の音が、メロディーの小さなピークになることが多いと思われます。
もちろん、違う人がいてもいいのです。自分の感じ方があれば、それで大丈夫。何も感じないで、漠然と流れていってしまっては、音楽にならないですよ。
もう少し考えてみましょう。このソナチネのメロディーには、もちろん続きがあります。知っているひとなら、だいたい、あと4小節でひとまとまりになるのがおわかりでしょう。
そうすると、メロディーは8小節でひとまとまりですから、1小節や2小節の中で、あまり大げさに大きくなったり、小さくなったりするのは、ちょっと考え物です。よくあるのは、表情をつけようとして、うねるように大げさな表現になってしまうこと。これも間違いではないですが、聴いている方が疲れてしまいます。
- 追記-表情のかたまりは大きめに
- もっと表情をつけて歌ってピアノを弾こうと思うとき、小さな表情をたくさんつける人もいます。もちろん、それはそれでいいのですが、そのときでも全体を通しての音楽構成ということに、気をつけましょう。フレーズのひとかたまりが小さい演奏は、ぎこちなさにつながりやすくなります。
また、ピアノという楽器は、強弱の幅を単音でも和音でも大きくつけられるので、フォルテとピアノをどのように表現するかをイメージできていないと、極端な演奏になってしまいます。
理想バランスとは
ピアノの演奏が素晴らしいものに聴こえる条件にひとつに、バランスがあります。例えば多く曲はメロディーと伴奏から成り立っているいます(もちろん、違うものもたくさんあります)。でも、メロディーが聴き取れないようなバランスの悪い演奏の人が、これまた結構いるのです。
では、理想のバランスとはどういったものなのでしょうか?メロディーが6で、伴奏が4の割合でしょうか。それとも、7対3でしょうか……
いいえ。最適のバランスはひとつではありません。弾くピアノによっても、曲によっても、表現の仕方によっても違います。好みの問題や演奏場所の問題もあります。ですから、単純な数字や比率によって、決めることは難しいでしょう。
答えは簡単です。自分の耳で判断するものなのですから。自分が弾くピアノを、よく聴いてみましょう。また、自分の演奏とプロの演奏を比べてみてもいいでしょう。音もバランスに重点をおいて、聴き比べてみると、いろいろなことが見えてくると思います。
ピアノの音のバランスは、普段から気をつかわないと、結構簡単に崩れてしまうものです。また、ピアノがおいてある場所や室温や湿気などの多さによっても、かなり違ってきます。一流のピアニストは、例えリハーサルができなかったとしても、わずか数音弾いただけで、そのピアノの特徴と会場での音の聴こえ方を判断し、瞬時に理想に近いバランスでピアノを奏でています。
もっと客観的には
でも、楽器というのは奏者に近いせいもあって、自分の演奏というのを正確に判断するのは非常に困難です。そこで効果的なのは、演奏を録音してみることです。電子ピアノについている録音機能でもいいですね。
どうでしょう?思ったよりも、伴奏が大きくて、メロディーが埋没しているなんてことはありませんか?また、リズム感やテンポも、自分が思った演奏になっていないかもしれません。意外なところに変な間があったり、突然急いでいたりすることもあるかもしれません。
でもそういったところが、録音して聴くことを繰り返すうちに、だんだん矯正されていくのです。
- 追記-自分の録音を聴いたとしても
- 自分の演奏を録音して聴くということは、客観的に聴くことに近づきます。弾いていたときの印象とは、かなりの違いがあることに気がつき、それを少しずつ手直していく作業を繰り返すうちに、演奏が自分の理想に近くなるのです。
そうやって録音を聴いての手直しをしているうちに、次第に録音をしなくても、自分が弾くピアノの音が、自分以外の他人にはどのように聴こえるのかを、想像できるようになります。
しかし、それでも自分がイメージしている演奏とは、実はまだ距離があるのです。録音はかなり客観的に自分の演奏を聴けますが、やはり自分の変なクセのようなものは、自分の耳を素通りすることがあるからです。ですから、他人に聴いてもらうことが、一番の解決になるのです。ピアノのレッスンの一番の目的は、他人である先生に聴いてもらうことにあるのかもしれません。
抜群のリズム感を持とう!
音のバランスも重要ですが、素晴らしい演奏とそうでない演奏の最大の違いは、リズム感かもしれません。洗練されたかっこいい演奏をするピアニストは、抜群のリズム感を持っているのです。
リズム感というと、誤解をしている人も多くいます。よくいわれるのが、「ブラジルはサンバの国だから、ラテンのリズム感がいい」とか「ワルツのリズム感は本場のウイーンの人にはかなわない」といったものです。
これらは大きな間違いです。ブラジルの人がみんなサンバを得意としているわけではないですし、ワルツのリズム感は、日本人でも素晴らしい人は大勢います。
また、リズム感というのは、何もそういった踊りの曲の話ではなく、普段の曲でもかなり重要なのです。テンポの設定や休符の間の使いかたなど、楽譜の指定をどう表現するかは、人によって様々です。
肝心なのは、基本のリズムを踏まえて、発展させること。基本リズムを習得していない人の演奏は、すぐにわかってします。
なんといっても、たくさんのリズム感にあふれる曲を聴くことが、いいことだと思います。音楽にあわせて、体でリズムを感じてみましょう。それが直接演奏に生かされるとは限りませんが、体が習得すれば、生かされてくるはずです。
曲を仕上げていく方法
一つの曲をどういう過程で仕上げていくかは、指導されている先生の方針もあるでしょうし、演奏者個人のパターンもあると思いますが、少し気をつけて欲しいことがあるのです。
それは、できれば譜読みの段階から、上記にあげたようなメロディーをラインや伴奏のバランス、リズム感といったことを意識して弾いた方がいいということです。そうしないと、どうしても平坦な演奏になりがちです。
「いや、まずは間違えないで弾くことが優先。表情をつけることなんて、3日もあればできる」という人もいます。事実、私は中学生のときに、そのように教えられていました。
でも、そうはならないようです。とにかくミスなく弾くことを一応完成させて、「さあ、もう少し表情をつけて弾こう」と思っても、それ以上なかなか音楽が良くならないのです。
それはどうしてでしょうか?理由はいくつか考えられますが、曲に対するイメージが無いままに練習をしてしまうと、それ以上は発展できません。また、平坦な演奏を続けるように譜読みを繰り返すと、平坦なイメージが自分に染み付いてしまうのかもしれません。
私が学生の頃に習ったイタリアの先生は、「特に速いテンポの曲を、遅く譜読みのような練習時するときは、少し大きめに表情をつけるくらいじゃないと、あとでただ速く弾くようになってしまう」と言っていました。遅く練習するとに、大げさな表情をつけろという意味ではないのですが、それくらいの意識がないと後で差がでます。
また、メトロノームに合わせての練習も、気をつけないと無表情への近道になりがちです。確かにメトロノームを少しずつ速くしていけば、そのテンポで弾けるようにはなりますが、リズム感や間の取り方が、どうしても一定の平坦な音楽になってしまいます。
私もメトロノーム使いますが、あくまで速さの確認という役目だと思っていたほうが良さそうです。