自分が弾きたいメインの曲のほかにも、ピアノでいろいろなものを弾いているという人も多いでしょう。
練習曲・指の練習・初見・伴奏練習など、多くものをやればそれだけ上達はしますが、一日の時間は限られているので、できるだけ効率よく練習のメニューを組みたいものです。
ここでは、ある程度高いレベルを目指している人のために、一例として練習のメニューをあげていますが、趣味として楽しくピアノを弾いている人にも、参考になると思います。また、楽曲と教材のコーナーとも関連しているので、合わせてお読みいただくと内容がつかめると思います。
曲数は多くが基本
ピアノ上達への道として、多くの曲を同時に練習(この先は曲を多く持つなどと表現していく場合もあります)するのが基本です。1曲を集中的に練習すれば、確かに早く完成して弾けるようにはなりますが、上達のスピードは1曲集中仕上げよりも、2曲の同時進行、2曲より3曲、3曲より…という感じで多くの曲を同時に持つ方が得です。
理由としては譜読みを沢山するからというのがひとつあると思います。またそれだけたくさんの種類の動きを同時期にすることが、さらなる進歩につながるのです。走っているだけのトレーニングでは、マラソンに勝てないようなものだと(少し違うかもしれないですが)思ってください。
もちろん、沢山の曲を同時に進行するといっても、実力をはるかに超えていてはこなせません。そのときの状況にもよりますが、上達のスピードが適度に早いのは、練習でこなせるギリギリの曲数より、すこし少ないくらいだと思います。もちろん、人によってピアノを弾く状況はさまざまですから、誰でもそこまでする必要はありません。
理想的には4・5曲は常に持って弾いていたいところですが、難しい場合は2曲の同時進行からはじめてください。
たくさんの曲を持ったときのコツ
曲数を多く持つといっても、どれにも全力で取り組んでいたのでは、時間が足りないでしょうし疲弊してしまいます。全てにおいて完璧を目指すのは悪いことではありませんが、目的はそこではありません。
ですので、例えば4曲同時進行とすると、その中で順位をつけます。
例として
「ベートーベンのソナタ1番の1楽章」と「ツェルニー30番練習曲」と「バッハのインベンション」に「初見練習」という組み合わせを中学生(別に誰でもいいのですが)が練習しているとします。
どの曲にも精一杯取り組むのが一番いいのですが、通常レッスンの1週間の間に、全てを仕上げまで持っていくのは困難です。ですからそれぞれの曲の進行状況にもよりますが、重点的に弾く曲とそうでない曲の差をつけてもいいのです。
ではこのケースの場合、中学生はどれを重点的に練習するといいのでしょう。
といっても正解などありません。好きな曲はやはり仕上がりが良いものですし、気乗りしないものはどうしてもそれなりにしか仕上がらないものなのです。
それでも「今はこれを一生懸命やろう」などと、目の前の小さな目標を立てるといいかもしれません。
私が例のような4曲を持って練習しているとすると、最重点はベートーベンにします。理由としては最もメインの曲らしいことがあげられます。そういうと誤解をする方もいるかもしれませんが、要するにピアノ曲であるということです。ツェルニーはお世辞にも音楽的ではないですし(と言うと必ず「ツェルニーは音楽的に弾かないといけない!」という批判が来ますが、全て流しています)、バッハは重要ですが高いレベルを目指している人にとっては普通はずっと続くものなので、メインの曲にはなりづらいでしょう。初見の練習は完成度は求めなくてもいいのです。
という感じで、勝手に練習の重要度をつけると、
ベートーベンのソナタ1番の1楽章>バッハのインベンション>ツェルニー30番練習曲>初見練習 という感じでどうでしょうか。
読書に例えてみるとわかりやすいでしょう。ベートーベンのソナタは好きな小説の熟読で、バッハは雑誌の興味のある記事。ツェルニーや初見練習は新聞の多読と乱読といった感じです。
メインのベートーベンは仕上がったらショパンやドビッシーに代わることもありますが、バッハやツェルニーは雑誌や新聞が記事は変わってもそれ自体は続くように続きます。
曲をたくさん持つときの工夫
上の例では、日本で一般的に行われているだろうと推測される組み合わせを例としてあげました。実際に古典とバッハと練習曲という組み合わせは基本的であるようですし、それに余裕があればさらに何かをプラスするという感じではないでしょうか。
しかし、このメニューが最適であるわけではありません。むしろ譜読みといったことを考えると、ちょっと簡単な部類に入ってしまいます。ベートーベンの初期ソナタは読みやすいですし、ツェルニーはもっと譜が単純です。バッハに苦労する人は多いかもしれませんが。
ですので、もう少し練習メニューとしては工夫が欲しいところです。もっとバラエティーに富んだ選曲の方がピアノ上達に良いことは、近年盛んに言われています。
例えば、ツェルニーなどの古典的練習曲を抜かしたメニューだってありです。
上記のような実力の人(一応中学生としましたが、別に誰でもいいです)を対象にしてみると
メインの曲 | バッハなどの多声もの | 練習曲や軽いもの | 習得すると得なもの | |
---|---|---|---|---|
例1 | モーツァルトのソナタ | バッハ「2声・3声インヴェンション」 | シューマン「子供の情景」 | 初見演奏 |
例2 | ハイドンのソナタ | バッハ「2声・3声インヴェンション」 | コードネームを使った伴奏 | J-POPのピアノ弾き語り |
例3 | ドビッシー「2つのアラベスク」 | スカルラッティのソナタ | モシュコフスキーの練習曲 | 声楽の伴奏 |
お気づきかと思いますが、複数の曲の時代や種類を違うような組み合わせにしたほうが、ひとつの国の同じような形式の音楽のみ固執するよりも、将来的に良い結果が得られるようです。
よく4時代(バロック・古典・ロマン・近現代)を同時進行するのが理想だといいますが、スペシャリストを目指さないのであれば、そこまで厳密にする必要もないでしょう。実力と相談しながら、少しずつ増やしていけばいいと思います。
王道からはずれているわけではない
上記例ではハノンやピシュナ、コルトーのメトードなどの指の練習のためのメニューが入っていません。これらの練習曲達、特にハノンを使っていないピアノの先生というのは極めて少数派かもしれませんが、他のコーナーでも述べたとおり、多くの人が信じているほどハノンに指練習の有効性はなく、効果は限定的だと思います。
ですから、基本ポジションと指の神経独立ということを踏まえていれば、筋力はだんだんついてくるものですので、ハノンをメニューに入れるとしても、短時間としたほうがいいでしょう。ピシュナなどはもう少し有効性が高いような感じがしますが、それでも1年中やっている必要は少ないと思います(当然ですが、ハノンはピシュナを毎日の練習でコツコツと5分、10分練習することは指の練習として有効です)。
また、バッハを抜かすことに不安がある人もいるかもしれませんが、実際にヨーロッパなどでドイツ以外の国ではバッハをそれほど重要視していないところもあります。もちろん、他のバロックやロココ時代の作曲家(クープランやスカルラッティやラモーやヘンデル)なども弾きますし、多声音楽はバッハだけではないので、日本のように絶対の存在とはしていないようです。むしろそれが普通の状態であって、バッハとベートーベンがピアノレッスンの主流であり続けている日本のほうが、変わっているのかもしれません。(そうは言っても、中級以上の曲を目指す人や専門的に勉強している人は、バッハの「インヴェンションとシンフォニア」全曲、「フランス組曲」、「平均律クラヴィーア曲集」などはやはり必須です)。
初見や声楽伴奏・J-POP弾き語りを入れることは、私の一押しのお薦めです。ピアノレッスンで実際にやってみると、その効果のほどを実感できると思います。
考えてみれば、ドイツの古典的鍵盤音楽のみを弾いているというのはおかしなことです。現実には日本にも日々新しい音楽が生まれているわけですし、そういった歌などを弾いて歌いたいと思うのが当然です。
しかし、古典のみをピアノで弾いていても、そういったものに譜読みやリズム、手の動きの違いで対応できない中学生や高校生はたくさんいます。また、コードネームからすぐにピアノ演奏につなげられないというのは、ピアノをせっかく習っているのに残念なことです。
確かに、ポップ系の音楽やそれを編曲した楽譜の中には、明らかにピアノで弾くのに適していないものや、強引な指使いをしないと弾けないものがあるのも事実です。
しかしそれでも、クラシックにはないリズムや和声感、弾くときの手の動きなどは絶対にプラスだと思います。