練習メニューを考えるでの曲を複数持つときの組み合わせ例の表でも少し触れていますが、アンサンブルを練習と取り入れたいものです。
ピアノは独りで弾くことが圧倒的に多いので、他人と合わせる音楽を楽しんだことの無い人も、多いかもしれません。でもアンサンブル(ここでは自分の以外の誰かと合奏するという意味で使用します)は楽しく、上達にも大きな効果があると思いますので、ぜひご自分のピアノライフに上手に取り入れてみてください。
ピアノと合わせる-連弾
ピアノの場合、他人とのアンサンブルですぐに思いつくのは連弾です。
連弾はピアノが1台で人数は2人で出来るので、自分のほかに誰かがいればすぐにできます。ピアノの先生と生徒の組み合わせが実際には多いでしょうが、生徒と生徒でもいいですし、もちろんピアノ教室が主体でなくても、友達同士で合わせることも楽しく出来るでしょう。
連弾をやったことが無い人は、初めての時にとても難しく感じるようです。
- 止まらない
他人と合わせて演奏するということは、自分だけ止まることはできない。ちょっとしたミスがあったとしても、続けなければならない。 - 呼吸を合わせる
演奏をはじめるときに、「いち、にの、さん」と慣れないうちは言ってもいいけど、発表することを意識したらそれはできない。途中でズレそうになっても、お互いの呼吸であわせる必要がある。 - 音のバランス
ファーストとセカンドの音のバランスを考えて演奏する必要がある。自分の両手のバランスとは違い他人の出す音とのバランスなので、すぐには理想バランスになりにくい。 - 意思の疎通
どのような音楽に作り上げるのかを、相談していく必要がある。お互い意見を出し合っていくが、どこかで妥協する必要が出てくる場合も考えられる。 - 緊張感
2人での演奏ということに、とにかく緊張する人もいる。
このようなことが、連弾で遭遇するポイントかもしれません。
これらを全てまるごと解決するのは困難ですが、少しコツを考えて見ましょう。
上手な人がセカンドでコントロール
通常オーケストラや吹奏楽などでも、同じ楽器のうち比較的上手な人がファースト(上声部)をやって、そのパートを引っ張ります。これはピアノの連弾に当てはめても良いのですが、連弾に慣れていない場合は、上手な人がセカンドをやって演奏をコントロールする方が、やりやすいでしょう。
ファーストは高音部でのメロディー系が多いので弾きやすさもありますし、セカンドの伴奏系の上に乗るようにして演奏できるので、連弾初心者にも戸惑いが少ないと思います。
それに比べてセカンドの伴奏系は似たような音型で進行することも多く、どこを弾いているのか迷ってしまうこともあり、ファーストを意識する余裕がなくなりがちです。また通常はペダルをセカンドがやる場合が多いので、入れどころにも気を使います。
ですから先生と生徒の連弾なら生徒はファースト。生徒同士なら比較的上手な方を最初はセカンドにして、慣れてきたら交代します。
最後まで弾く習慣を
音楽というのは時間ものですから、一度弾き始めたら止まらずに最後まで弾くのが原則です。これは独りで弾いても大勢で弾いても同じことですが、独りでピアノを弾くというのはいつでも自分だけの意思で止まれてしまうので、普段の練習でもミスタッチが少しあったら止まってしまう習慣がついている人が多いのです。
しかしアンサンブルは自分ひとりの意思では止まれません。連弾はそれを再認識するいい機会です。
呼吸を合わせて弾き始めたら、どちらかがミスで止まっても片方は弾き続けるというルールを事前に確認しておきます。
これはかなりの集中力と判断力がつきます。例えば先生と生徒の連弾の場合、生徒がつまづいて止まってしまっても、先生はセカンドを弾き続けます。生徒は止まった箇所からではなく、先生が続けている演奏にあった箇所から入る必要があるのです。
慣れないうちは難しいでしょう。でもこれによってファーストもセカンドの楽譜を見て知ったおくことや、止まったときにはどこからが入りやすいかをセカンドからの音や小節数で確認するなど、自分なりの手段が生まれます。そして音楽は常に流れているということを、確認して欲しいのです。
簡単なものからが鉄則
独りでピアノをかなり弾けている人でも、連弾などの複数人数のアンサンブルでは別です。お互いの手が交差するような動作もあるので、ぶつかったりして自分の思うようにいかないこともあると思います。
そこでとても簡単なものから連弾を始めるのがおすすめです。わたしはピアニスト 連弾曲集(1)やおとなのためのピアノ連弾曲集といった曲集は、個々にピアノを弾くには簡単なので、連弾を体験することに重点を置けます。また、これらの簡単な連弾曲集は、ある程度弾けるレベルの人にも「初見連弾」のように使うこともできます。ちょっとスリリングな感じがして、結構楽しめます。
仕上げの形まで
最初はお互いに合わせて弾くのが精一杯の連弾も、一応の仕上げ段階のレベルまで演奏をつくっていきたいところです。これは個々に十分弾けていることが前提で、しかも連弾ならではの演奏をする必要があります。
結局は手探りの状態から次第に演奏が整っていることが多いでしょうが、気をつけて欲しいのはお互いの演奏を聴きすぎないということ。
でも、ピアノに限らずアンサンブルのときは「お互いの音をよく聴いて!」と言われている人も多いでしょう。それはそうなのですが、実はお互いの音を聴きすぎは演奏がよくならない原因にもなります。連弾の場合はセカンドが一定のテンポの伴奏だとすると、ファーストの音を聴きすぎてテンポを崩してしまうと、それを聴いたファーストがさらに崩れるということもあります。
ですから、細部の調整が必要な箇所やテンポのゆれなどで呼吸を合わせる必要があるところは、お互いに意識してよく合わせる心がけをして、どんどん弾いていける箇所では自分達の演奏を外から全体を把握するように聴く第三者的な耳が必要なのです。
これは簡単なことではないのですが、本来はお互いに合わせることに神経をたくさん使っているようでは、連弾の醍醐味は味わえていないと思ってください。
考えてみると、ピアノ以外の楽器では普通に行われている作業です。例えばフルートやトランペットのような管楽器なら、吹奏楽などで小さなアンサンブルから大人数の合奏形式まで幅広く。バイオリンのような弦楽器でも、自分だけで弾く人もいるでしょうが、他のヴィオラやチェロなどのとのアンサンブルやオーケストラのようなものまで広く体験できます。
しかしピアノという楽器はひとりで幅広い音域を扱うことができるので、どうしてもそれ単独の音楽が主流です。学校で合唱の伴奏などを担当する人もいるでしょうが、ほんの一握りにしかすぎないでしょう。
ピアノ連弾のみではなく、2台ピアノや管楽器とのアンサンブル、歌の伴奏などたくさん体験できた方が、ピアノ独奏が上達するうえでもメリットが大きいのでしょうが、現実にはなかなかそこまでできません。でも、連弾を少しやっておく程度でも、声楽の伴奏を頼まれたり、バンドにキーボードで参加することになったり時にもアンサンブルするということに少しでもあわてずに対処できると思います。